大杉集落の南方に位置する妙見山（標高約170メートル）に古城跡の所在を伝える。（因伯古城跡図志）

所在した村名に因み大杉城とも呼称されるが、八橋から船上山にかけて仕切の城と併せ伝えの城が1～2ヶ所置かれたとすることから別城郭を示すとも考えられる。

 

西側から北側へと流れる洗川（国土地理院地図では赤松川）と東側の今田川を水堀に、山塊南東の尾根と谷部を土塁と空堀に見立てた天然の要害となっている。

東側の谷部（字西山周辺）から回り込み、南方からの侵入を試みる勢力に対しては今田神社周辺に哨戒施設の配置も考えられるが今田神社を合祀した神郷神社の社伝に記載は見られない。

 

主郭には八幡社（通称は八幡山）が祀られ、北東の出丸には秋葉社が祀られている。

現地に妙見社は現存せず妙見山の由来に関する情報も得られなかったが、元来は神仏習合によって「妙見八幡大菩薩」を祀っていたが神仏分離令によって妙見菩薩と八幡神（譽田別命）に分離され、菩薩を公然と祀ることが憚られ八幡神だけが祀られ続けたことに対して山の名に「妙見山」を遺したものと考えられる。

一考には城将であった秋里新左衛門の一族が因幡国妙見山城を領有していたことなどから、一族が妙見菩薩を守り神とした妙見信仰に深い縁がある可能性も。

 

因伯古城跡図志下 伯耆国　大杉村妙見山古城跡

 

因伯古城跡図志では南の主郭（イ）を十間（約18メートル）四方としている。

現在は約30メートル四方の広さがあることから文政年間以降に八幡宮造営などによる拡張、改変が行われたと推測される。

主郭から北東部の尾根先端に進むと主郭北腰郭➡堀切➡尾根筋（南小郭➡堀切➡帯郭南➡堀切➡帯郭北➡堀切➡出丸南郭）➡堀切➡出丸（ロ）の順で到達する。

出丸には秋葉社が祀られていることから往古は尾根先端にも重要な拠点となる施設の所在が考えられる。

主郭（イ）から出丸（ロ）まではやや距離があることから、出丸（ロ）の東麓に居館を置いた根小屋式の城郭にも見える。

 

因伯古城跡図志では井戸郭から南方へ山峰が順々に続くと記載され、佐崎村を右手に伯耆国太一垣城（篠山城）へ至る作図となっている。

両城は最終的に船上山へと繋がり鶴翼の配置となることから、当城の役割は赤碕から八橋周辺の日本海側平野部及び海浜部での動向に備えた伯耆国船上山城の支城と推測される。

吉川元春の書状には「八橋舟ノ上間に伝城并仕切之城一二ヶ処取付以、其上羽衣石可及行儀定候」とあることから、当城が仕切の城、今田神社周辺が伝えの城とも推定されるが天正年間には当城を南条方、太一垣城を吉川方が領していたとすることから、雁行の配置でも機能する城郭であったことが伺える。

 

伯耆民談記 八橋郡古城之部 妙見山の城

 

1582年（天正10年）

南条元続の持ち城のひとつとされ、守備隊を配置して警戒を行ったとしている。

吉川家の家臣で太一垣城（篠山城）の城主、森脇春親が部将の秋里新左衛門、三沢備後守らに命じて当城を攻撃した際、南条元続は自ら軍勢を率いて来援し城外で応戦している。

秋里新左衛門、岩垣何助によって城将であった近藤何某、東平八が討ち取られると南条方は支えきれず、吉川方の軍勢によって当城は接収されている。（伯耆民談記）

東伯町誌では天正年間、南条元続による築城とし、家臣の有沢左京進に守らせた城としている。

 

伯耆民談記 八橋郡古城之部 秋里新左衛門戦務書述の事

 

因幡（稲場）民談記 巻第十 筆記之部 下 秋里新左衛門戦務書述

 

1582年1月19日（天正9年12月25日）

伯耆国八橋城にて杉原盛重が病没する。

杉原景盛が八橋城を相続したが、悪逆無道の悪政を敷いたことが伝えられる。（伯耆民談記）

 

1582年（天正10年）初夏

杉原景盛による悪政は領民の信を失い、住民の不満を見かねた毛利方の吉川元長が八橋城を攻撃し杉原景盛は追放される。

当城は引き続き杉原景盛の所領として認められていたようであるが後に南条方の近藤何某が占有している。

西伯耆へと逃亡した杉原景盛は兄の杉原元盛を暗殺して家督を奪い、毛利家への叛意を疑われると織田方であった南条方へ寝返ろうとするなど不穏な動きを見せ、後に反乱を熾す。

 

1582年9月1日（天正10年8月15日）

杉原景盛による反乱は鎮圧され、杉原景盛は処断となった。

杉原景盛の死により当城は南条方から毛利方への返還が約束されたとする。（秋里新左衛門戦務書述）

 

1584年（天正12年）

杉原景盛の死後、毛利方へ返還されるはずの当城は未だ南条方の近藤何某が占有していたため、森脇春親は部将の秋里新左衛門、三沢備後守に命じて城の受け取りへと派遣したが南条方から城の返還は行われず、城への入城も拒まれたため秋里新左衛門は山下（城下）、三沢備後守は岸中（主郭直下の切岸付近か）に布陣する事となった。

秋里新左衛門戦務書述では三沢備後守の布陣位置を「岸中」と特筆していることから、この時は主郭東側切岸への布陣が比較的容易であったと伺える。

後に吉川方と織田方の緊張が高まり、東面に対する防御施設の強化が必要となり畝状竪堀群が追加普請されたとも推察される。

当城を吉川方の軍勢が包囲したことから南条元続は自ら軍勢を率いて出陣し、援軍の報せを受けた近藤何某は友軍との挟撃を図り出陣した所を秋里新左衛門、岩垣何助に討ち取られている。（秋里新左衛門戦務書述 伯耆民談記）

秋里新左衛門戦務書述（因幡民談記）では近藤何某の処遇は捕縛とされ、殺害に至らない記述となっている。

秋里新左衛門は当城を迅速に接収できたのは自身の迅速且つ的確な判断と岩垣何助の働きあっての事とし、森脇春親へは両名の手柄であると念を推して報告している。（秋里新左衛門戦務書述）

 

伯耆民談記（八橋郡古城之部 妙見山の城）では1582年（天正10年）の出来事としているが、秋里新左衛門戦務書述では杉原景盛に関する報告書に続いて「同月に舟上細木原之城に行松殿被罷出候に」と続くことから1584年（天正12年）の出来事であった事が解る。

秋里新左衛門戦務書述からは1582年（天正10年）、杉原景盛の処断後に当城の返還が約束されるも約定は果たされず1584年（天正12年）に事件が起こったと捉えることができる。

伯耆民談記及び秋里新左衛門戦務書述の何れもほぼ同じ内容となっているが一部に相違が見られる。

伯耆民談記（八橋郡古城之部 妙見山の城）では南条方の近藤何某、東平八を討ち取るなど吉川方が当初より武力を以て当城の接収を意図しているが、秋里新左衛門戦務書述では約定の不履行に端を発する不可抗力の開戦としている。

伯耆民談記と因幡民談記でも近藤何某に関する記述が異なり、を伯耆民談記では殺害、因幡民談記では捕縛と訳している。